おはよーございます。
水墨画家のDです。
「絵が上手くなるためのいちばんいい練習方法は模写」
っていうのが絵描きの世界では常識みたいになっておりますが。
じゃあなんで模写がいちばん練習になるのか?
っていうと。
①遊び感覚でできるから
②頭の中のイメージを的確に描写する練習になる
です。
そこんところを深堀りして解説します。
そもそも模写って何のためにするの?
模写は「誰かが描いた絵とか写真をそのまま写して描く」ことです。
何のために模写をするのか?といいますと。
まず、どんな線が描かれてるのかとか、モチーフの細かいところまでよくみたりして観察力を養うのがひとつ。
なんでこんな構図になってるんだろう?って作者の意図を考えたりするのがひとつ。
全体的な雰囲気とか空気感を感じ取ったりして、感受性を養うのがひとつ。
ひとつの絵からそういういろんなことを吸収して、それを自分の手で忠実に再現するのが模写の目的です。
そのためには線を思いのままに描く描写力が必要なので、それを養うのも目的のひとつです。
模写が練習になる理由①遊び感覚でできる
模写は、それだけでいろんなことが学べるので、初心者から上級者まで、レベルに関係なくいろんな人ができるいちばんの練習方法です。
なぜなら。
遊び感覚で楽しくできるからです。
好きなキャラクターとか模写してたら楽しくて時間経つのも忘れてしまうじゃないですか。
そうやって夢中になってやってたら自然と練習量が増えるので、勝手に上手くなっていくんです。
絵は気づいたら上手くなってた、っていうのがいちばん理想なんですけど、遊び感覚で楽しくやってるとそれが起きます。
だからね。この遊び感覚でっていうのが絵を描く上でいちばん大事なところで、ここを心に留めておけば後のことはどうでもいいぐらい、非常に大切なことです。
遊び感覚でやってたらもうひとついいことが起きます。
それは遊び感覚で描いてる方が、気持ちのこもった素晴らしい絵になりやすいっていうことです。
素晴らしい絵っていうのは、人を絶句させるほどの感動を与える、圧倒的なパワーみたいなものを感じさせる絵です。
そういう絵がどうやって生まれるかというと。
線を1本1本描いてる時に、なんかこうワクワクするような、腹の底から何か熱いものが湧き上がってくるような感じがしたら、それは気持ちのこもった素晴らしい絵になります。
具体的に言うと、たとえば好きなキャラクターを描いてる時に、「この線がおれの好きなキャラクターになるんだ♡」みたいな感じです。
そんなんもう楽しいしかないじゃないですか。
だから遊び感覚で描くのがいちばんいいんですよ。絵って。
ところが、絵描きを志すとその気持ちはどこかに忘れがちです。
そういうワクワクする気持ちがないと、絵はすごくつまらないものになります。
よくやりがちなのが、描きたくないものを描くことです。
たとえば人にこれ描いたら上手くなるよーってすすめられたりとか、もしくは自分で選んだものでもなんでもそうですけど。
「描きたくないなー」とか思いながら描いた絵は、すこぶるつまらないものになります。
そしてそのできあがったつまらない絵を自分でみてさらにつまらなくなります。
自分には絵の才能がない……
なんて思ってしまって、さらにつまらないものを描こうとしてしまいます。
絵が上手くなるためには通らないといけない道なんだ…!
とかナゾの使命感みたいなものが生まれてしまうんですね。
そうなると完全に負の連鎖なので、描きたくないものを描いてイヤな気持ちになるぐらいなら描かない方が数倍マシです。
絵が仕事になれば、描きたくないものを描かないといけない、なんてこともたくさんあります。
でも絵を仕事にしてる人は、描きたくないものでも楽しく描くことができるのです。
それはひとたび筆を走らせればそういう気持ちはどこかに飛んでいっちゃうんですね。
描くこと自体が楽しいっていう境地に達してるんです。
だから、それが描きたくないものだろうがニガテなものだろうが関係なく、紙に向かって筆を走らせてる時は全神経をそこに集中していて、「どうやって素晴らしい絵に仕上げてやろうか」っていうことしか頭にないんですよ。
僕の個人的な話をすると、そういう気持ちになるまではとにかく自分の好きなものばっかりを模写していました。
幸いなことに今は検索できないものはないぐらい、いろんなものがネット上に転がっております。
ふと「これ描きたいな〜」って思ったものでも5秒でその画像を手に入れることができるんです。
それを最大限利用して、「自分が描きたいと心底思うもの」をひたすら模写しまくっていました。
ある程度なんでも描けるようになってきたな〜ってなった時に、もっとレベルを上げたいと思ったんですね。さてどうしようかしら。
「じゃあ、今までずっと目を背けてきた、ニガテなものを描けるようになろう!ほんでニガテじゃなくそう!」と思って描いてみたところ、描く前はすごくイヤな気持ちだったんです。
描けなかったらどうしようとか。
不安でいっぱいで。
ところが、あら不思議。
ニガテで描きたくないもののハズなのに、筆を走らせてる時にはそんな気持ちがどこかに吹き飛んでしまってですね。描くことに集中できてすごく楽しいんです。
おかげさまでニガテなものがニガテではなくなりました。
そんな感じで、僕はひたすら自分の好きなものを遊び感覚で模写していました。
そうやってるうちに絵を描くことがどんどん楽しくなっていって、描きたくないものまで楽しく描けてしまうという精神状態に、なったんですね。
そんな経験があるので、模写はすごく練習になるということを骨の髄まで理解してるんですけど、絵を描き始めたばっかりの時は「好きなもの描く」っていうことに照準をしぼった方がいいですね。
遊び感覚でできるので。
描きたくないものを描くのも練習にはなるんですけど、それは絵を描くこと自体が楽しいっていう精神状態に持っていけたら、の話です。
そうなるまではとにかく好きなものばっかり描いてれば勝手に上手くなっていきます。
好きなものばっかり描いてたら偏ってしまう、っていう意見もあったりするんですけど、その偏りは個性につながっていくので、むしろ偏った方が面白い絵描きになれる可能性が広がります。
模写が練習になる理由②頭の中のイメージを的確に描写する練習になる
もつひとつ練習になる理由が、頭の中のイメージを的確に描写する練習になる、です。
模写って目線の移動があるんです。
それがどうした?になるかと思いますが、この目線の移動がね、すごく重要なカギを握ってて、後ですごく生きてくるんです。
さっきも言ったんですけど、模写は元の絵とか写真からいろんなことを吸い取るのが目的です。
その吸い取ったものをいったん頭の中に一時保存します。その時点では目線が元の絵とか写真にあるわけです。それを紙に描こうと思ったら目線を真っ白な紙に移して、記憶を頼りに線を描いていかないといけないんです。
一時保存した記憶はずっと残ってるわけではなく、描いてるうちにどんどん薄れていきます。
そうすると、どこにどんな線を描いたらいいかがわからなくなるので、また元の絵や写真をみて脳に新たに記憶を植え付ける必要があります。
基本的に絵が完成するまでそういう動きの繰り返しなので、目線があっち行ったりこっち行ったり大忙しです。
この目線の移動があるからこそ練習になるんです。
目線の移動があると頭の中にあるイメージだけを頼りに形にしないといけないんですね。
それが後々オリジナルの絵を描く時にすごく役に立ちます。
オリジナルの絵っていうのは、頭の中にイメージがフワーっと浮かんできてそれを形にするものなんです。
それは他のどこにもない自分だけにしかわからないものなので、参考にする絵とか写真とかがなかったりするんです。
だからこうして模写をたくさんすることで頭の中のイメージを的確に描写する力を養う練習をしてる、というわけです。
そして、その目線の移動にいろんなことをプラスアルファして、レベルを数段上げたのが「デッサン」です。
模写とデッサンの違い
絵の基本は模写と、もうひとつデッサンがあります。
模写とデッサンは、「何かをみてそれをそのまま描く」という点では同じなので、「絵を描くならまずデッサンを」と考える人が少なくないです。
デッサンというとこんな光景が目に浮かぶのではないでしょうか。
こんな感じで石膏人形を離れたところに置いて、それをみてわりと大きめなサイズの紙にエンピツでシャコシャコ描いてるっていう。
そうです。
これがまさにデッサンです。
このデッサンってめちゃくちゃ高等技術なので、初心者が安易に手をつけるとゴリゴリに地獄をみることになります。
何が高等技術なのかいうと、デッサンってただ描くだけじゃなくて、すごくいろんなことを考えないといけないし、いろんな知識とか技術が必要になってくるからです。
この写真のように石膏人形を描くっていう場合でいうと、まず。
真っ白な紙にどんな絵を描くか?を決めます。
そしてその描いた絵をみた人がどんな感情になるか?を逆算して考えます。
これをコンセプトを決める、と言います。
そして次にどんな感じで石膏人形をその枠の中に収めるか、という、構図を決めていきます。
全体像がキッチリ枠の中に収まるようにするのか。
それともどこかをズームアップした構図にするのか。
そして人形はどの角度からみたらいいのか。
上からみるのか。
下からみるのか。
構図は先ほど考えたコンセプトに合ってるかどうかを見極めながら決めていきます。
まだエンピツで線を描いてない状態でこれだけのことをまず考えるのがデッサンです。
ホラ。
よく手を伸ばしてエンピツを立てて片目閉じてモチーフとにらめっこしてる光景あるじゃないですか。
あれはたぶんそういうことを頭の中でいろいろ考えてるんですよ。#やったことないから知らんけど
ここでやっとこさエンピツの登場です。
考えた構図の通りに人形の形を描いていきます。
ココが模写と違って高等技術が必要なところです。
デッサンは模写に比べるとモチーフとの距離がベラボーに遠いです。
さっきの写真だとおよそ2メートルは離れています。
なので目線の移動が激しい上に、常に同じ形をとらえれるわけではありません。
首を上げたり下げたり、真っ直ぐ向いたり横向いたりする動きの中で、モチーフをみる角度が微妙に変わってきます。
しかもその時、モチーフの細かい形とか質感とか、量感、陰影などいろんなところを細かく観察することが必須です。
そうすると脳みその中の一時保存した記憶がかなり曖昧になってしまって、正確に描写するのが非常に難しくなります。
もはや何を言ってるのかわからなくなってきた感じだとは思いますが、デッサンはそんな感じでいろんなことを考えないといけないので、ある程度描写力がないとそこに集中できないんですね。
だから初心者・中級者にとってはかなり高等技術になる、というわけです。
このデッサンは、オリジナルの絵を描く時に模写よりもはるかに役に立ちます。
なので、絵どころか、彫刻、建築などあらゆる美術の基本になっています。
模写は、このデッサンをするための予行演習みたいなものなんですね。
関連記事⇒【デッサンの目的】デッサンには絵の基礎がすべて詰まってる
初心者のための模写のコツ
絵の初心者からすると、目線の移動がある模写はなかなかハードルが高い練習方法です。
なので、できるだけ目線の移動がないように、元の絵や写真と紙を近づけて、距離を限りなくゼロに近づけて描くのです。
そうすれば描きやすくなります。
それでも難しい場合は、トレースから始めるといいと思います。
トレースは真っ白な紙の下に描きたい絵や写真を置いて、透けてみえたものを上からなぞる方法です。
なので、絵をまったく描けない初心者がやるにはもってこいです。
なんでかっていうと、トレースは目線の動きがないからです。
目線の動きがないトレースは線を描くことだけに100%集中できます。
トレースで自分描いた線がキレイな形になった、っていう経験を頭に刷り込んで、線を描くことの楽しみを覚えるのです。
最初はぎこちない線になってしまいますが、数を重ねれば少しずつ滑らかな線になっていきます。
後、絵がニガテな人にとって、いちばんの敵は自分自身です。
「描けない」という思い込みが自らの手をカタくしてしまって、思うように動かなくなるのです。
トレースで線を描くことの楽しみを覚えることでその思い込みも取り除けます。
模写の豆知識
模写の「模」っていう漢字は「手本」とか「かたどる」とか、そういう意味の漢字だそうです。
模範とか模倣とか模擬とか。
模写の「写」っていう漢字は「マネて描く」とか、「原本、原図の通りに描く」っていう意味です。写真とか写経とか写実とか。
だから並べて書くと、手本を写すという漢字の意味そのまんまっていう並びになっててなんか面白いですね。
こうして漢字の意味を知ることでね、こう、感受性が高くなって、絵に深みが増したりするのでぜひ心に留めておいてください。こういう考え方は日本人ならではなので、それだけでも深みを加えることができるのですごく面白いと思います。
まとめ
とゆーわけで。
そろそろ描きたくなってきた頃合だと思うのでこのへんで失礼いたします。
それではまた〜。