こんにちは。水墨画家のDと申します。
今回は「魅力的な絵を描く方法」というテーマで能書きをたれていこうと思います。
魅力的な絵を描くためには「絵が上手いか下手か」よりももっと大事なことがあります。そんなことは二の次で、その絵から感じ取れる雰囲気とか世界観とか空気感っていう目にも見えない、数値化もできない"何か"が出せているかどうかです。
上手いんだけど何も感じない絵もあれば、反対に、誰がどう見ても決してお上手ではないことがわかってるのになんか惹きつけられるような、そんな絵もあります。
そこには魔法みたいな不思議な力が働いてて、そこに僕ら人間は「魅力」を感じて心を奪われてしまうわけですね。
魅力ってナニ
そもそも「魅力」って何だろう?と調べてみたところ、「人の心を引きつけて夢中にさせる力」と国語辞典先生は言っていました。
これは上手いとか下手とかそんな次元をはるかに超越した、言葉では言い表せない、目にも見えない、数値化もできない魔法のような力です。
この魔法のような力のことを僕は「ナニカ」と呼んでいます。

「ナニカ」が込められた絵とか音楽は僕らの心を鷲づかみにして軽く奪っていきます。
たとえば絵じゃないんですけど童謡の「赤とんぼ」なんかはすごくわかりやすいなぁと思います。
「ゆうや~けこやけ~のあかと~ん~ぼ~♪」っていうフレーズありますよね?これって歌詞とメロディーが絶妙にマッチしてて誰が歌っても夕焼けの中を飛んでる赤とんぼの映像が浮かんでくると思うんです。

それってこのメロディー自体に目に見えない「ナニカ」が働いてて、たとえばゴミ収集車がこの「赤とんぼ」のメロディーだけをオルゴール調で鳴らしながら街中を走ってたりするのですが、それを聴いただけで映像が浮かんでしまうぐらい強烈なインパクトがあります。#厳密には歌詞とセットで頭にインプットされてるからだとは思いますが
漫画家の手塚治虫氏なんかはホントはベラボーに絵が上手いのにあえてそれを崩すことで魅力的なキャラクターをたくさん生み出しています。

「鉄腕アトム」がめちゃくちゃ描き込まれた「北斗の拳」みたいな劇画調の絵だったらあそこまでの人気を呼んだかわかりません。

手塚治虫氏の魅力はこんなデフォルメされたキャラなのに話の内容が深すぎて濃すぎてめちゃくちゃハートに刺さってくるところ。

僕ら絵描きがいちばん大切にしなきゃいけないのはココで、人を惹きつける魅力的な絵を描くためには「絵が上手い」のはもはや当たり前の話で、問題はその先にある「ナニカ」を伝えるために何をするか?です。
手塚治虫氏は「ナニカ」を伝えやすくするためにあえてデフォルメしたキャラクターで漫画を描いてらっしゃいます。#単純に作画の負担を減らしただけという説アリ
この「ナニカ」という謎の見えない力は誰でも生まれ持っているもので、磨きかた次第で良くも悪くもなります。
「ナニカ」を磨くために必要なこと
「ナニカ」を磨くための超重要なヒントが隠されている言葉を紹介したいと思います。
いきなり音楽に話が飛ぶのですが、プロドラマーの村上ポンタ秀一氏が
棒きれ(スティック)持って1万年やるよりも、もっと広い視野でたとえば綺麗なものを見る、それに感動する、思いっきり泣く、思いっきり怒る、思いっきりスケベな気持ちになるとか、そっちの方が大事でさ。そういう感性があるからこそ音符を操ったときにそれこそ音楽のマジックみたいなものがあるんだけど、そういうことを考えないでやってるやつと同じことやってても表現が全然違ってくる。
と言っていました。

もうモノづくりの基本と極意がすべてが詰まっている、素晴らしい言葉だと思います。これって音楽だけにとどまらず、すべての芸術に通じるすっごくステキな言葉です。
僕はこの言葉が大好きで、ずーっと頭に鮮明に残っています。
ポンタ氏は技術どうこうで悩むことよりも、いかに自分の身の周りのものに触れてそれに対して心を動かせるか。ということを言っていて、カンタンにいうと「わあ!すげえ!!」って目ぇキラキラさせてはしゃげっていうことですね。

小さい子どもみたいにどんな些細なことにも感動できるような、そういう深い感受性を持て、とそうポンタ氏はおっしゃっております。
それはたとえば道端に生えてるタンポポの花を誤って踏んでしまったとします。タンポポはわりと強い植物なので、踏まれたぐらいではなかなかへこたれません。傾きながらも見事に花は咲いてフワフワの種を飛ばします。
その踏んでしまったタンポポをひとつの生命として、大切に扱えばそのまま放置なんてできません。
「せっかくきれいに花を咲かせてたのに…踏んでしまってゴメン…」って、添え木をしてあげるような純粋で優しい感性を持てば「ナニカ」は磨かれていくってことです。

これはあくまでほんの一例です。そうしたほうがいいよっていう単純なことではなくて、そこまで深く考えれるような深い感受性を持ったほうがいいよっていうことです。
ドラえもん「のび太の結婚前夜」より
このタンポポエピソードは「ドラえもん・のび太の結婚前夜」をそのまま引用したものです。
こんなふうに「のび太くん」のように純粋な感性は大人になればなるほど自分で押さえつけてしまう人が多いです。
たぶんそれをまわりの人に言うと冷ややかな目でみられたりして恥ずかしいからだと思いますが、恥ずかしがらずに自分の感情に素直になってみてください。基準なんてないです。自分のこころの赴くままに。解放してください。
そういう感性が「ナニカ」を爆発的に成長させてくれます。
第一線で活躍してるような人はみんなこの「少年のような純粋な感性」を持っています。
ジブリの宮崎駿氏とか。ワンピースの尾田栄一郎氏とか。だからあれだけ人の心を鷲づかみにする作品が創れるんだと思います。
魅力的な絵を描くための○○

さて、絵を描くうえで「ナニカ」っていう不思議な力が非常に大事なものだということはなんとなくおわかりいただけましたでしょうか?
じゃあそれをどうすれば紙の上に表現できるか、という小手先のテクニックをお伝えしたいと思います。
あくまで小手先なのでこれをすれば魅力的な絵が描けるっていう単純なものじゃないのでご注意ください。
バックヒストリーを考えてみる
たとえば人物画を描くとき。
その人がどんな性格なのか、何に感動する人なのか、短気なのか、おおらかなのか、どんな人生を送ってきたのか、などなど、細かい設定を考えて描いてみるとそれだけでも絵に深みが出てきます。
今この瞬間何を考えてるんだろう。そうなるとこのポーズはちょっとおかしいなとか、これはこの人っぽくないなとか、いろんなことがみえてきて、じゃあどうすればいいか?が面白いぐらいみえるようになります。

その絵の枠の外のことを考える
絵は1枚の紙の上に自分が描きたいものを自由に描きますが、ひとつの枠の中に収めないとダメですよね。
たとえばこんな絵を描くとします。どこのどなたかはいっさい知りませんが、夫婦の絵です。

一部分を切り取って枠の中に収めたものですが、手をつないで赤ちゃんのくつをパパが持っています。
これだけだと赤ちゃんの姿が見えないのでいろんな想像をすることができます。写真をそのまま絵に描くとすると、後ろから光がぼんやり差しているので幸せそうな絵に仕上げれそうです。
枠の外のことを考えたときにもしかしたら赤ちゃんを何らかの事情で亡くしてしまって、形見のくつをふたりで持ってる…っていうめちゃくちゃ悲しい絵に仕上げることもできます。あんまりそういう悲しい絵にしたくはないですが。
そんなふうに枠の外をいろんなパターンで考えると、その絵が持つメッセージ性がずいぶん変わってきます。
実際はこんな写真です。

赤ちゃんはママのお腹の中にいて生まれるのを心待ちにしている幸せいっぱいの写真でした。
そういう目には見えないところまで細かく設定して描くことで、絵って深みが出たりします。
関連記事⇒絵の構図:「決められた枠の中」という制約が創造性を膨らます

細かいところまで描き込む
バックヒストリーにも通ずるところがありますが、その絵に登場するものの細かいところを描きこんでみる、というのも面白いです。
たとえば人物画だったら、目の下に傷の跡があるとか。服が微妙によごれてるとか。
そういう細かいところまで設定して描き込むことで必然的に自分の中でその裏の設定が出来上がります。不思議なことにそれだけでも深みは出てきたりします。

そのへんに関して『もののけ姫はこうして生まれた』というドキュメンタリーで宮崎駿氏がキャラクターのひとりひとりの設定をめちゃくちゃ細かいところまで考えていて、それがすごく印象的だったので共有します。
中でも特にこれはすげえなと思ったのが、モロという山犬の声を担当した美輪明宏さんがアフレコ現場で、モロとオッコトヌシ(いのししの神様)の会話のシーンを録音してる最中の出来事です。
美輪さんが音響監督さんに何気なく「はぁ~い」と返事をしたのを宮崎さんが聞いてニヤリとしました。

ニヤリの理由は、「モロとオッコトヌシは大昔いい仲だった」という設定をそのときに思いついた、とのことです。
そういう感じを出してくださいと美輪さんに伝えて実際に声をあてると、それまでのものと全然違うものになりました。
詳しくは見てみてください。マジでためになります。
今のはほんの一部で、そんな小さなこだわりがホントに至るところにあります。そしてスタッフ全員がそれを共有してる。(させられてる。笑)
それはクリエイターだけじゃなくて、映画に携わる人たち全員がそういう意識を持ってやっています。
だからこそあの映画はあれだけの、社会現象になるまでの素晴らしい作品になったんだと、ものすごい感動をおぼえました。
まとめ
以上魅力的な絵を描く方法でした。
絵に魅力を持たせるために必要なのは絵の中身のことまで深く深く考えて実際にそういう細かいところまで描き込むことです。
それを表現するために細かい技術を習得したり、知識を学んだりするんですね。くれぐれも知識とか技術だけを追い求めて「上手いけど何も伝わってこない絵」にならないようにご注意ください。
僕はそれをやっちまった経験があります。
詳しくは「Dの部屋」で語っているので登録してみてください。
それでは今日はこのへんで失礼いたします。
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