こんにちは。水墨画家のDと申します。
今回は水墨画と墨絵の違いを画像つきで解説していきたいと思います。
めちゃくちゃザックリいうと、水墨画は水で墨を薄めてぼかしたりにじませたりし濃淡を表現した絵画です。墨絵は墨を使って描いた絵画全般のことをいうので、水墨画も実は墨絵のジャンルのひとつです。
こんな感じで水を使ったり使わなかったりっていうわかりやすい違いこそあるものの、それ以外のところは、何を描くかによって呼びかたが変わったりする程度で境界線がめちゃくちゃあいまいです。
とはいえ、その歴史はものすごく深くて実に1000年以上もの間、いろんな人がいろんな表現を模索していました。
その熱量は凄まじくて、ひとりひとりが命を懸けて挑んでたもんですから、いろんな墨絵が生まれるのも至極当然の流れというわけですね。
いろんな墨絵
墨絵を大きく分類すると白描画、仏画、墨彩画、水墨画に分かれます。
さらに墨絵、やまと絵、唐絵をまとめて「日本画」になります。
こんな感じです。

やまと絵と唐絵には墨だけじゃなくて色がついてるものもたくさんあるのでこんなふうに分かれております。
水墨画の中にも、山水画があったり、南画があったりして本当に多種多様です。
そのひとつひとつに神社とかお寺みたいな、なんともいえない奥の深さがあるので、ご堪能いただければと思います。
白描画
たぶんいちばん水墨画との違いがはっきりしてるのがこの白描画です。
中国では「白画」とも呼ばれてます。
仏画はこの白描画の一種です。
墨の曲線だけで表現するので色彩を着ける前の下描きみたいな感じで「素画」ともいいます。ぬり絵の色を塗る前の黒線だけで描かれてるヤツみたいな感じです。

繊細な筆使いで描かれている白描画は唐の呉道玄(ごどうげん)という画家が完成させました。
その後に白描画は一旦衰退していきますが、北宋時代に李公麟(りこうりん)という画家が復活させました。
近年の日本でその李公麟が描いたという「五馬図」という絵画が発見されて話題になりました。
日本では奈良時代に墨が伝わって以来、独自の発展を遂げていて、平安時代に描かれた「鳥獣戯画」なんかが有名どころです。
絵に多少詳しい人はこの「鳥獣戯画」をやたらと勧めてきたりします。笑
この白描画にはグラデーションがなくて、全体的に平面的な表現になっていて、カゲも線を何本も重ねたりして表現しています。


こんな感じで平面的な表現になっております。立体感とか奥行きも線を何本も重ねることで表現します。その手法は現在でいうところの「漫画」的な表現に近いかもしれません。
漫画はGペンっていう細いペンを使って絵を描いていて、立体感を表現するときなんかは線を何本も重ねてカゲを表現したりしています。そう考えると墨絵と漫画って何かしらのつながりがあるのかもしれません。
墨絵の面白いところはなんといっても筆が予想外の動きをして思わぬ結果が得られるところです。
墨を含んだ筆は先の硬いペンとは違って、どんな動きをするのかわからないことが往々にしてあります。たまに自分でも思ってもみないところに動き出したりして、それが予想外に良くなったり悪くなったりします。
筆って生きてるんです。
それが筆を使った墨絵の醍醐味でもあります。
井上雄彦氏の「バガボンド」はペンではなく筆ですべての作画をしているので、生々しい墨絵の雰囲気を醸し出しています。その生々しさが作品の世界観と絶妙にマッチして最高です。大好きです。
やまと絵
平安時代に発達した日本独自の絵画を「やまと絵」と呼びます。
「陸絵」「和絵」「倭絵」「和画」などなど。これ全部「やまとえ」って読みます。いろんな漢字が当てられています。
源氏物語にこのやまと絵が使われてたりします。あと、百人一首とかもこんな画風ですね。

元々は中国の風物(風景とかその土地特有のもの)を描いた「唐絵」でした。それを日本風にアレンジを加えたものを「やまと絵」と区別して呼ぶようになりました。
そうやって元々あったものを自分たち好みにアレンジするのは日本人の得意技です。
ラーメンとかカレーとかがまさにそんな感じですよね。現地のものは日本人にはなかなかキツイ。笑
水墨画とは
これが水墨画です。↑
墨絵は水を使わない絵画です。水墨画は水を大量に使います。これが水墨画と墨絵の明確な違いです。だから「水」墨画です。
なんつって。
水墨画の大きな特徴は、墨を水で薄めて使うところです。
墨を水で薄めると灰色になります。灰色の濃さは水の量で自由自在に調節できて、それを塗り重ねるときれいなグラデーションになります。
ただグラデーションになるだけでなく、浮いてくるような錯覚に陥ります。この絵なんかはまさに浮き出てくるような表現が見事です。↓

ほかにも紙に水を含ませて、その上に墨を乗せると表面張力でいい感じに墨が広がってくれて、水墨画の特徴である「にじみ」とか「ぼかし」になったりします。
反対に紙に墨を乗せてから水だけを含ませた筆で伸ばしたりすると、墨と墨のつなぎ目がなくなってきれいなグラデーションになります。そのグラデーションが立体感とか奥行き感を絶妙に表現してくれます。これは水の動きをコントロールできないことも往々にしてあって、自分でも思いよらない結果になったりすることもあります。それが作品の方向性とばっちりマッチしたときなんかはホントに鳥肌モノで、水墨画の醍醐味といえます。
水は自然のものなので、まさに「今取ってきました」みたいな生の感覚を味わえます。
デジタルが主流の昨今においてこれだけ超アナログな絵画ってなかなかなくて、やっぱり人間が落ち着くところは超アナログなんじゃないかなぁと思ったりします。#にんげんだもの
この動画は水墨画を描いているところです。水を使って墨を散らしたりして見事に森を表現しています。
水暈墨章
そんな水墨画が誕生したのは中国の唐の時代(西暦700年あたり)、山水画家の荊浩(けいこう)さんという人が生みの親です。
著書の中に「水暈墨章(すいうんぼくしょう)のごときは我が唐代に起こる」っていう言葉を残していて、それが「水墨画」の語源とされています。
なんかカッコいいですよね、「水暈墨章」って(>_<)
たぶん荊浩さんは「墨って薄めたら面白い表現ができるんじゃね?」とかなんとかブツブツ言いながら墨を薄めて絵を描いていたに違いありません。
山水画
水墨画といえばこの山水画を思い浮かべる人も多いのではないかと思います。
山水は山と水、つまり大自然を意味するので水と墨を使って描いた風景画という解釈でいいと思います。
中国の山奥の険しい山岳を霊的な存在としてみる中国人が自身の空想を混ぜて描いた風景画が山水画です。
歴史が深くて、西欧の風景画が成立する1000年も前から山水画は存在していました。
山水画は北宗画と南宗画に分けることができます。詳細はあとで♡
日本はどちらかというと超有名な雪舟が影響を受けたことから、北宗画のほうが色濃く残っています。


南画
江戸時代に「祇園南海」という人が中国の南宗画の影響を受けて始めたのが南画です。
南宗画と北宗画
南宗画と北宗画は両方とも山水画です。
山水画といえば中国の山奥の険しい山岳を硬い輪郭線で表現した、迫りくるような印象の絵画です。

職業画家、いわばプロの絵描きが描いた絵が多いのでこれを北宗画と呼んでいます。
これに対して、中国の官僚である「文人」が仕事の合間にプロが描いた山水画を参考に描いたものを「南宗画」と呼んでいます。いわばアマチュアが描いたものなので技術はそんなにない「味のある絵」に仕上がっていました。
なので「南宗画」は「文人画」と呼ばれたりしています。
それに憧れて影響を受けた日本人が始めたのが「南画」です。代表的な画家に祇園南海、与謝蕪村、池大雅がいます。
墨彩画
墨彩画は水墨画で描いた絵に顔彩とか水彩絵の具で色をつけた絵画です。

基本的に水墨画と同じ技法で描かれることが多くて、水墨画の墨の力強さに色鮮やかな色彩が加わって、とても華やかな仕上がりになります。
絵手紙、俳画なんかにも応用できて、表現の幅がかなり広がります。色がニガテな人にとってはわりと壁が高いかもです。。。
筆ペンは墨絵?
そういう意味でいうと筆ペンで描いたものは墨絵に分類することができるんじゃないかな?と思ったら、筆ペンには濃い墨と薄い墨のものがあるのでグラデーションをつけることができてしまいます。
そうなると分類が難しいので筆ペンはもう「筆ペン画」でいいと思います。
こちらは筆ペンで描いた絵です。これをみると墨絵ともいえそうだし水墨画ともとれるし、区別が難しいところ・・・

ちなみにですが水墨画の練習をするのに筆ペンはもってこいです。
まとめ
以上、墨絵と水墨画の違いを解説してみました。
たったひとつの墨からこれだけたくさんの種類の絵画が生まれたのはやっぱり長い歴史があるからなんだと思います。
正直、パッと出されて「これは何?」と聞かれても区別しにくいのもたくさんあります。それは水墨画・墨絵の奥の深さを物語ってる、っていうことでもあります。
そんな水墨画・墨絵を自分の手で描いてみるのもなかなか面白いのでぜひ描いてみてください(^_-)-☆
参考になればと思います。
こちらで言われる墨画が時代と共に変化し墨の使用方法を拡大し、また施色技法を変えながら水墨画と呼ばれるようになったと理解しています。大源流の中国画を歴史的にご考察頂ければ水墨画は、墨だけを使うものではないとご理解頂けると思います。