こんにちは。
水墨画家のDと申します。
水墨画と墨絵の違いを17秒で解説します。
まず。
墨絵は、墨を使って描いた絵全般を言います。で、水墨画はその墨を水でぼかしたりにじませたりして描いた絵のことを言います。
つまり水墨画は墨絵の中のひとつのジャンルっていうことになります。♯17秒ジャストぐらい✨
なので、ライオンとかトラが実はネコ科の動物でネコのほうが上位種だった、みたいなノリです。
図で表すとこんな感じです。

もっというとこう。

ちなみに。

とはいえ、こういう境界線なんてすごくあいまいなもので、「これは○○!」とか、「これは○○!」みたいに明確な基準とかがあるわけでないです。
なんであいまいなのか、っていうと、あまりの歴史の深さゆえに、いろんな墨絵とか水墨画が無数に存在してて、そのすべてを分類するのはなかなか難易度が高いからだと思われます。
その歴史はなんとおよそ5000年。
これは大変なことです。
ほかの絵画、たとえば「油絵」とかってダヴィンチとかミケランジェロとか、けっこう歴史ありそうな感じがしますが、それでも600年ほどです。600年でもじゅうぶんすぎるぐらい歴史は深いのですが、
墨絵の5000年に比べるとちょっと霞んでしまいます。
それほど長くて、深〜い歴史が墨絵にはあるのです。その間に繁栄したり衰退したり、いろんな紆余曲折がありながらも、途絶えることなく今も僕らを魅了して止みません。
墨絵ってめちゃくちゃ奥が深い芸術なんです。
そんな墨絵の世界をちょっとのぞいてみましょう( ̄▽ ̄)v✨
中国5000年の歴史
墨絵の始まりは中国です。紀元前、「殷(いん)」っていう古代中国時代から墨を使って何かを記録していた、と考えられています。それが今から遡ること、5000年以上も前の話です。
日本の初代天皇が紀元前700年とかなので今から2700年前です。それよりもさらに倍ほど遡ります。気が遠くなりそうなほど、遠い昔のお話です。
そのときに甲骨文字を書くために墨を使ってた、っていう痕跡が残っていました。で、ここで僕は考えました。
文字を書くぐらいなんだから絵も描いてたに違いない!と。
でもホントに墨で絵を描いてたかどうかは、残念ながら記録には残ってないんです。
でも「中国5000年の歴史」とかいうと、なんかスッゲエ壮大な感じがしてカッコいい!と感じているのは僕だけでしょうか?( ̄▽ ̄)V✨

そんな墨絵がなんとなくこんな感じで分かれてるなぁ~っていうのが↓の図です。

□白描画

いちばん古い墨絵っていう形で残ってるのがこんな感じの「白描画」っていう墨絵です。
中国では「白画」とも呼ばれていて、墨の線だけで絵を描いていてとてもシンプルな仕上がりになっています。

これは「仏画」という白描画です。
その昔、日本では「墨絵といえば仏画」みたいな時代もありました。
水墨画とか墨絵に少しカタイイメージがあるのは、このころの名残かなぁなんて思ったり。
◆「漫画」のご先祖・鳥獣戯画

日本が誇る最大の文化に「漫画」があります。
いまや日本の「漫画」は世界中でいろんなクリエイターたちに大きな影響を与えています。
その「漫画」の表現手法の元祖になったのがこの「鳥獣戯画」といわれている墨絵です。

鳥獣戯画は墨の線だけで描かれてる「白描画」です。
歴史の深い墨絵が日本が誇る最大の文化の元祖になっている。。。
なんか、、、そこにロマンを感じずにはいられませんっっ。
白描画の特徴は「線だけで描く」のほかに、陰影も遠近感もゴッソリ抜け落ちていて、すごく平面的な表現になっていることです。
今では遠近感とか陰影がある絵画は当たり前ですが、そういう考えかたが日本に入ってきたのは明治以降でわりと最近の話なんです。当時はモノの捉えかたが今とは全然違っていて、遠近感も陰影もつけない、というのが主流だったみたいです。じゃあどんなふうに表現していたのか?というと、遠くのものは同じ大きさで上へ上へと積み重ねて描かれていきました。
その表現手法は「やまと絵」になると如実に表れていて、日本の掛け軸が縦長なのはそういった理由からきてるとかなんとか。
遠くのものが上へ上へと積み重ねていく手法は現在でもしっかりと受け継がれています。

♯くれぐれも言っておきますが、僕はちびまる子ちゃんが大好きです。
◆やまと絵

白描画が日本に入ってきてから水墨画が日本に入ってくるまでの約300年の間、色彩のない白描画では物足りなくなったのか、これまた中国の「唐絵」の影響を受けたのか。
※唐絵……中国の墨絵に色をつけた華やかな絵画
これに色をつけたら面白いんじゃね?っていう人が現れてただの白黒だった白描画に岩絵具で色がつきました。これが「やまと絵」と呼ばれてる絵画です。いろんな漢字があてられていて、「大和絵、陸絵、和絵、倭絵、和画」これ全部「やまと絵」って読みます。♯もはや多すぎて何がなんだか
このあたりの時代のことを「平安時代」といいますが、それを象徴する「源氏物語」「枕草子」、「竹取物語」なんかに使われてる絵がやまと絵です。江戸時代の屏風とかにもやまと絵が描かれてたりします。
このやまと絵の特徴はなんといっても「岩絵具」っていうカラー絵の具を使って色鮮やかな絵画になったことです。
色がついたとたん、やまと絵人気が爆発したとかなんとか。。。
やっぱり人はモノクロよりもカラーのほうがいいんですねぇ。。。(遠い目…)
とはいえ、モノクロの「白描画」が衰退したとかではなくて、やまと絵と同じ時期にさっきの鳥獣戯画が誕生したので、モノクロにはモノクロの良さがあるのもこれまた事実です。_:(´ཀ`」 ∠):
やまと絵は後々に幕末まで400年も続くことになる絵画集団「狩野一族」によって引き継がれて、やがて「日本画」と名前を変え、日本の絵画の歴史に大きく名前を残すことになります。
ちなみに「唐絵」っていうのはやまと絵と同じ感じで白描画に色がついた絵画です。少しややこしいですが「中国産のやまと絵」みたいな感じです。
水墨画
水墨画がこの世に誕生したのは。墨絵が日本に伝わったころ(西暦700年あたり)、おとなり中国で荊浩(けいこう)さんという人が何やら面白い実験をしていました。
墨を水と混ぜると薄くなることを発見した荊浩さんは「お?これを使って絵を描けばなんか面白い表現ができるんじゃね?」と。
水墨画が産声を上げた瞬間でした。
それが日本に伝わったのはそこから400年後の鎌倉時代(西暦1200年あたり)。仏教の禅と一緒に伝わってきました。
禅といえばお寺です。水墨画はお寺の修行の一環として取り入れられていて、
当時は絵の腕に覚えがある人はみんなお寺に出家して水墨画の修行にはげんでいたそうな。
かの有名な「雪舟」もその流れにのって水墨画を描くために出家しました。でも雪舟氏は絵ばっかり描いて全然修行に励んでなかったそうです。笑

でも、その「悪ガキ雪舟」の登場のおかげで一気に水墨画の歴史が変わりました。
水墨画の最大の特徴はなんといっても、水を使って墨を薄めてグラデーションを表現することです。
これによって表現の幅が無限大に広がって、こんな絵だって描けるようになりました。

荊浩さん、雪舟さん、ありがとう。
◾️水墨画の語源
水墨画を生み出したのは荊浩さんなのですが、彼は著書の中で「水暈墨章(すいうんぼくしょう)のごときは我が唐代に起こる」っていう言葉を残しています。
この「水暈墨章」っていう言葉が水墨画の語源っていわれてたりします。
「水暈墨章」
これだけだとちょっと意味がわからないですが、要するに「水で墨を暈(ぼか)したらなんかイイ感じになるよね」です。
なんかステキですよね( ̄▽ ̄)✨
◾️山水画
水墨画といえばこんな感じの絵を思い浮かべる人も多いんじゃないかと思います。

これは「山水画」といいまして。
「山水」っていう言葉は中国語で風景っていう意味なんですけど、実は同じ「風景」という言葉が中国語にもあるんです。
なのでこの「山水」っていうのは文字通り山と水、つまり、大自然寄りの風景っていう解釈になります。それを水墨画で表現したのが「山水画」です。
でも日本の大自然と中国の大自然とではその質が全然違っていて。
僕は実際に行ったことはないのですが、写真でみるだけでもその雄大さといいますか、神々しさといいますか、日本では絶対にお目にかかれない景色が中国にはたくさんあります。
この写真とかヤバくないですか!?!?

写真をみるだけでも目ん玉ひんむいて息が止まりました。
実際に行ったらもっと素晴らしいものなんだろうな、と、ワクワクが止まりません。
その昔、中国の山々は神様とか仙人、霊獣なんかが住んでいる聖なる場所として崇められていたそうです。
わかります。。。
そんな空気が写真からでもビシバシ伝わってくる。。。
これを肌で感じながら描く水墨画はさぞ楽しくてしかたないんだろうな、と。
まとめますと、墨の線だけで描く「白描画」、それに岩絵具で色をつけた「やまと絵(唐絵、日本画)」、水で墨を薄める「水墨画」、おおむねこの3つに分かれるのが墨絵です。そこからさらに「仏画」とか「山水画」とか、いろいろ細かく分かれていったりします。でも5000年という、あまりにも深い歴史があるゆえに、いろんな要素が混ざり合って、細かく分類することが不可能なぐらい、ホントにたくさんの種類の墨絵がこの世には存在しています。
なので、軽〜く鑑賞するぶんには何の問題もないですが、本気で鑑賞しようと思ったらそれなりの知識があったほうがより楽しめると思います。
僕もまだまだ知らないことだらけです。
でね。
その長〜い、深〜い歴史は鑑賞する側にとっては一枚の絵からにじみ出てるいろんな歴史とか伝統を感じとるのがすごく楽しいところでもあります。
でもたとえばそれを「自分で描いてみたい!」って思ったときにその「歴史と伝統」が重くのしかかってしまって、少し気が引けてしまう…なんてことも少なくありません。
↑これ僕の体験談です。
なんかビビってました。
ビビらなくなったのは、
「歴史と伝統」は人々が幸せになるためにあるものだ、って気づいたときです。
そう考えると、水墨画もしょせん(…なんていうと語弊がありますが)白と黒だけで表現する「ひとつの芸術」であることには間違いはないんです。
芸術こそ、人々が幸せになるためにあるものです。その感じかたはそれぞれですが、どんな作品であろうと、鑑賞した人に「幸せになってくれ」っていう前向きなメッセージが込められてるものだと僕は思います。
番外編:お手軽に始めれる墨絵・水墨画
水墨画は実際に描くってなるとそれなりに準備が大変なので、お手軽に水墨画の雰囲気を楽しめる絵画をいくつか紹介したいと思います。
白と黒だけで表現することがこんなに素晴らしいものなんだ、っていうのが伝わったらいいなぁと思います。
◾️エンピツ画

まずエンピツ画です。
これは昔からあるお手軽の極みです。すぐ始めれるうえに墨絵と同じ白と黒だけです。
水墨画みたいにぼかしたりにじませたりすることはできないですが、エンピツの使いかた次第で限りなく近い表現はできるようになります。
さぁ、今すぐエンピツを手にとって描いてみてください♡
◾️筆ペン画

これは筆ペン画です。
パッとみたらふつうに墨絵?水墨画?と思ったことと思います。v( ̄▽ ̄)v〜♡
筆ペンで墨絵風に描いたらこうなりました。
筆ペンは筆の中からインクが出てくる超便利アイテムで、フタを開ければすぐに描ける優れモノです。薄いインクのモノもあるし、筆の中から水が出てくる「水筆」というモノもあるので水墨画のように表現することもできちゃいます。

細かいことを気にし出すとやっぱりホンモノとは全然違いますが、筆で絵を描く感覚がどんなものかを確かめるにはもってこいです。
それで楽しい!って思えたら今度は墨を使って本格的にやってみるといいと思います。
◾️デジタルで水墨画
こちらの絵をごらんください。

これはiPadのお絵かきアプリで描いた水墨画風のデジタルの絵です。
ここまでくるともはや「ただの白黒の絵やないか!」と言われてもしかたないですが(笑)、でもいろんなペンの種類があるので筆とかエアブラシとかで描けば水墨画っぽく表現はできます。
デジタルのいいところはなんといってもいつでもどこでもできる超お手軽感です。(タブレット、スマホのみ。PCはちょっと手間かかります)
さっきの筆ペン画もお手軽っちゃーお手軽ですが、場所を確保したり、紙を間違えたとき用に何枚か準備したり、汚れたりすることを考えるとそれなりに手間はかかります。
でもデジタルはそういうのを一切気にすることなくいつでもどこでも水墨画を楽しめます。
さっそくアプリをダウンロードしてお楽しみください。
こんなふうに、いろんな形で白と黒の世界を表現する手段があります。
そのひとつに「水墨画」っていう少しだけ手間のかかる表現手段ががあります。
墨を磨ったり、墨を水で薄めたり、、、。
でも手間がかかるぶん、それが自分の思いどおりになったその瞬間とか、墨がまるで生きているかのように躍動する瞬間っていうのは、何ものにも代えがたい感動と興奮があります。
そんな墨絵・水墨画の世界をぜひご堪能ください✨
参考になればと思います。
こちらで言われる墨画が時代と共に変化し墨の使用方法を拡大し、また施色技法を変えながら水墨画と呼ばれるようになったと理解しています。大源流の中国画を歴史的にご考察頂ければ水墨画は、墨だけを使うものではないとご理解頂けると思います。