水墨画と墨絵に違いはありません。
水墨画は墨絵の一種なのです。
もっというとこう。
ごらんのように墨絵にはいろんな種類があって、水墨画はその中のひとつっていう位置づけです。
いろんな○が重なり合ってるのは、それぞれの歴史があまりにも深すぎて、境目がわかりにくいからです。
水墨画は「墨を水で薄めてぼかしたりにじませたりして濃淡(グラデーション)を表現するのが特徴の白黒の絵」というイメージが強いかと思いますが、中には日本画のように色をつけて表現するものもあったりするので、こんな感じで○が重なっているワケです。
中華料理なのか和食なのか洋食なのかよくわからないことってあるじゃないですか。
そんな感じです。
歴史が深いと言いましたが、墨絵の発祥はおよそ3000年前の中国です。
中国3000年の歴史
墨絵の始まりは今から約3000年前、キリストが生まれて西暦がはじまったのがおよそ2000年で、そこからさらに1.5倍の1000年も前のお話です。
その頃の日本はというと、初代天皇が誕生したのが今から約2700年前でギリかすめてるぐらいです。実際にはそれよりもさらに300年ほど遡ったぐらいの時なので、もはや何が何だかわからないぐらい、遠い昔の出来ごとっていう認識でいいかと。#そんな数字ピンとこない
中国の「殷(いん)」っていう時代に墨を使っていろんなことを記録したっていうのが始まりです。
そんな時代に甲骨文字を書くために墨を使っていた、っていう痕跡が残っていました。
残念ながら絵の記録は残っていないのですが、誰かは絵を描いてたハズだという、個人的な憶測です。でもそうやって妄想をふくらませた方が楽しいと思っています。#見出し詐欺
いちばん古い絵の記録として残っているのは紀元前200年あたりで、3000とは程遠い数字です。
でも。
公式な記録がすべてではないので、2200っていう中途半端な数字より3000の方がすごそうな感じがしていいんじゃないかと。
とゆーわけで。
いろんな墨絵を紹介したいと思います。
□白描画
この世でいちばん古い墨絵として残っているのがこんな感じの「白描画(はくびょうが)」っていう墨絵です。
墨の線で陰影をつけず輪郭のみを描いた非常にシンプルなもので、中国では「白画」とも呼ばれています。
白描画の特徴は「線だけで描く」のほかに、陰影も遠近感もゴッソリ抜け落ちていて、すごく平面的な表現になっていることです。
現代では遠近感とか陰影とかはごく当たり前のことですが、この当時はまだそんな考え方も技術もなかったようです。むしろそういうのはあえて遠ざけてた感じ。
じゃあどんなふうに表現していたのか?というと、遠くのものを同じ大きさで上へ上へと積み重ねて描かれていました。
その表現手法は「やまと絵」になると如実に表れていて、日本の掛け軸が縦長なのはそういった理由からきています。
そういう意味でいうと「ちびまる子ちゃん」のこういう構図なんかは白描画の表現手法ですね。
白描画は線のみで表現する絵画ですが、日本の文化の象徴ともいえる「漫画」も線で輪郭を表現しているので、白描画と言っても過言ではありません。
その漫画の元祖といえるのが有名な「鳥獣戯画」です。
鳥獣戯画
鳥獣戯画は墨の線のみで描かれた「白描画」です。
平安時代後期から鎌倉時代前期にかけて制作された、京都の高山寺に伝わる国宝にも指定されている絵の巻物です。
全部で4巻あって、その全長は実に44mもありますが、それぞれが何を表現しようとしたのかはいまだにはっきりわかっていない、謎だらけの絵画です。
漫画やアニメの元祖と言われていて、世界的にもその名前は知られているスゴいヤツです。
特に有名なのはウサギやカエルが擬人化されて駆け回って遊びまくってる様子を描いたコレです。
鳥獣戯画は謎だらけの絵画で、いまだに作者が誰なのか、何の目的で描かれたのか、はたまた描かされたのか、がはっきりわかっていません。
特筆すべきは動物の表情の豊かさ、筆運び、正確なデッサン力で、動物たちが楽しそうに遊んでいるのが伝わってきて、まさに漫画の元祖と言われるにふさわしい表現力で描かれております。
これが1000年も昔の我が国ニッポンで描かれていたんです。
ネットにもたくさん転がっていますが、やっぱり実物を観ると伝わってくるモノが違うと思うので、ぜひ京都までお立ち寄りくださいませ。
そんな白描画が日本に伝わってきた当時は仏教と深い関わりがあって、仏様を白描画で描いていました。
仏画
これが「仏画(ぶつが)」っていう白描画です。
仏教絵画とも呼ばれておりまして、仏教を広めるために仏様を描いたものが多く存在しております。
仏様のモデルは仏教の教祖・シッダールタ。
彼の生涯を描いた手塚治虫氏の漫画「ブッダ」は壮絶で、生きることは何なのかをすごく考えさせられる名作です。
そりゃ教祖にもなるわな、と。
ぜひ読んでみてください。
読んだあとはメンタルがかなり消耗しますが、同時に生きる勇気がわいてきます。
仏像の代わりに仏画を飾って崇拝したり礼拝したりすることもあるようです。
世界最古の仏画がインドのアジャンタ石窟寺院というところにある壁画なんだそうな。
日本では平安時代あたりに中国を経由して伝わってきておりまして「墨絵といえば仏画」みたいな時代もありました。
墨絵とか水墨画が少しカタイイメージがあるのは、このころの名残でしょうねー。
そんな白描画は日本では「唐絵」と呼ばれていました。
唐絵
「唐絵(からえ)」は「唐(とう)」という国で描かれた絵画です。
唐っていうのは昔の中国らへんの大国の呼び名で、約300年あのあたりを支配していました。日本でいうと徳川幕府みたいな感じです。
昔の日本人は中国に対する憧れがすごく強くて、社会の時間に習った「遣唐使」は唐の国の文化を学ぶために派遣されました。
唐の「律令制度(法律に基づいた統治制度)」をそのままパクって同じような制度「大宝律令」を作ったり、長安という都市をそのままパクって平城京にしたりと、今の日本があるのは唐という国があったから、と言っても過言ではありません。
持ち帰ったものの中に絵画も含まれていて、それをマネして日本人が描いた中国風の絵画を「唐絵」と呼んでいました。
なので中身的には白描画です。
今でいうと、中国料理と中華料理みたいな感じでしょうか。
中国料理を日本風にアレンジしたものを「中華料理」と呼んでいるように。
中国の人からすると中華料理は中国料理じゃない!というのが言い分だそうです。
唐絵に日本人が勝手に色を付けたのが「やまと絵」です。
◆やまと絵
中国風の絵画を「唐絵」と呼んだのに対して、そこに日本人が勝手に色を付けたものが「やまと絵」です。
いろんな漢字があてられておりまして、「大和絵、陸絵、和絵、倭絵、和画」これ全部「やまとえ」って読みます。
やまと絵は単なるモノクロだった白描画が物足りなかったのか、当時の日本人が勝手に色を付けてこうなりました。
どうやって色をつけたのかというと、「岩絵具」っていう鉱石を粉にした色絵の具を使って色をつけました。
そして色がついた途端やまと絵人気が爆発したとかなんとか。
かの有名な源氏物語とか枕草子、竹取物語にもこのやまと絵が挿絵として使われています。
やっぱり絵は華やかな方がいいですよねぇ、、、。(遠い目)
とはいえっ。
モノクロだから衰退したとかではなく、やまと絵と同じ時期に先ほどの「鳥獣戯画」が誕生しているので、モノクロにはモノクロの良さがあるのです。
やまと絵はその後、幕末まで400年もの間活躍する絵画集団「狩野一族」によって引き継がれ、やがて「日本画」と名前を変えて、日本の絵画の歴史に大きく名前を残すことになります。
やまと絵の誕生からだいぶ年月が経ってから日本に伝わってきたのが「水墨画」です。
水墨画
水墨画が産声をあげたのは、墨絵が日本に伝わった平城京とか平安京とかの頃(西暦700年あたり)、おとなり中国では「唐」の時代です。荊浩(けいこう)さんという人が面白い実験をしたことがきっかけです。
墨と水が混ざると薄くなることを発見した荊浩さんは「お?これを使って絵を描けば面白い表現ができるんじゃね?」と鼻息を荒くしていたそうな。
(でもそもそも、墨を磨る段階で薄い墨はあるはずなので、磨った墨と水を混ぜたのか墨を磨る段階の薄い墨のことを指しているのか定かではありませんが)
それが「水墨画」の誕生のキッカケです。
荊浩さんは唐で活躍した画家です。
水墨画が日本に伝わったのは誕生から400年後の鎌倉時代(西暦1200年あたり)。
仏教の「禅」と一緒に伝わってきました。
禅といえばお寺です。
水墨画は当時のお寺の修行の一環として取り入れられていて、絵の腕に覚えのある人はみんなお寺で水墨画の修行にはげんでいたそうな。
かの有名な「雪舟」氏もその流れにのって水墨画を描くためにお寺に修行にいきました。
でも雪舟氏は絵ばっかり描いていて他の修行は一切やってなかったとか。爆笑
でもその「悪ガキ雪舟」の残した功績は計り知れず、彼のおかげで日本の絵画の歴史は変わったといっても過言ではありません。
とにかくいろんな人に影響を与えまくっていて、400年の歴史を誇る「狩野一族」も雪舟氏から大きな影響を受けています。
水墨画の特徴はなんといっても水で墨を薄めてグラデーションを表現することです。
グラデーションのおかげで表現の幅が圧倒的に広がってこんな絵も描けるようになりました。
こんなのはまだまだ序の口で、もっともっといろんな表現ができるハズで、可能性は無限大です。
荊浩さん、雪舟さん、ありがとう。
関連記事⇒【水墨画の描き方】難しい技法がなくても楽しんで描く方法
◾️水墨画の語源
水墨画を生み出した荊浩さんは自身の著書の中でこんな言葉を残しています。
「水暈墨章(すいうんぼくしょう)のごときは我が唐代に起こる」
直訳すると「おれが水墨画を発明したんだぜ」です。
「水暈墨章」という言葉の意味は「水で暈(ぼか)して墨で章(つづ)る」で、これが水墨画の語源と言われています。
そんな荊浩さんの代表的な水墨画が「山水画」です。
◾️山水画
水墨画といえばこんな感じの絵を思い浮かべる人が多いのではないではないかと思います。
これが「山水画」で、いろんな画家の人がこの山水画を描いています。
「山水」っていう言葉は中国でいうところの「風景」っていう意味なのですが、風景は風景で同じ意味の言葉が中国にもありまして。
なのでこの山水という言葉の意味は文字通り山と水、つまり大自然よりの風景画、と解釈することができます。
でも日本での大自然と中国の大自然では全然性質が違ってて、中国の山々は日本とは比べ物にならないぐらい雄大で神々しいです。
こんなすごい絶景は日本ではお目にかかれません。
その昔、中国の山々は神様とか仙人、霊獣なんかが住んでいる「聖なる場所」として崇められていたそうです。
……なんかわかりますね……。
そんな空気が写真からでもビシビシ伝わってくる。。。
その空気を肌で感じながら描く水墨画はさぞ素晴らしい作品になるんだろうなと。
死ぬまでに絶対実現させたいですね。
まとめますと、墨の線だけで描く「白描画」(唐絵)、それに岩絵具で色をつけた「やまと絵(日本画)」、水で墨を薄めて描く「水墨画」、だいたいこの3つに分かれるのが墨絵です。
そこからさらに細かく分類していくと「仏画」とか「山水画」とかが出てくる感じです。
3000年というあまりにも深すぎる歴史がある故に、いろんな要素が混ざり合って、細かく分類することができないぐらい、ホントにたくさんの種類の墨絵がこの世には存在しています。
そしてそれぞれの分類の中でもまたさらに歴史があります。
その知識とともにいろんな墨絵を鑑賞すると、より深い感動を得られるハズ。
僕自身、まだまだ知らないことだらけですが水墨画の歴史とかを勉強してから絵を観るとまた違った感動が得られました。
これをきっかけに水墨画の勉強を始めた、とか言ってもらえた日にゃー嬉しすぎてオシッコちびるかもしれません。
でね。
その長くて深い歴史というのは、一枚の絵からビシビシ伝わってきてすごく重みというか、威圧感まで感じるので、それを自分で描いてみるってなるとワクワクしてきません?
僕自身、水墨画を描こうと最初に思った時には、その「歴史と伝統」に重みを感じてちょっと怖かったのですが、こうやって歴史を詳しく知ると、「これは後世に伝えていかなきゃ」っていう、謎の使命感が生まれてワクワクしてきました。
「歴史と伝統」っていうのは、人々が幸せになるためにあるもので、作品を残そうと尽力した人は少しでも自分が受けた感動を後世の人たちにも味わってほしい、と願って残したに違いありません。
そう考えると、歴史と伝統は重くのしかかってくるものじゃなくて、むしろ僕らの背中を押してくれるエネルギーとして受け取るべきなんです。
何かすごくイイことを言ってる気がするのでこのへんで締めたいと思います。
長々とありがとうございました。
番外編:お手軽に始めれる墨絵・水墨画
水墨画・墨絵は実際に描くってなると準備とかわりと大変だったりするので、お手軽にその雰囲気を楽しめる絵画をいくつか紹介したいと思います。
水墨画も墨絵も同じ白と黒だけで表現する絵画なので、モノクロでもこれだけの表現ができてすごく楽しいんだぜ、っていうのが伝わったらいいなーと思います。
◾️エンピツ画
まずエンピツ画です。
これは絵の基本中の基本で、お手軽の極みです。家にある場合が多いと思うので、今すぐにでも始めることができます。
水墨画のようにぼかしたりにじたせたりすることはできないですが、エンピツの使い方や、他の道具を使うことでそれにかなり近い表現もできるようになります。
◾️筆ペン画
これは筆ペンで描いたコモドオオトカゲです。
パッと見、普通に墨絵、もしくは水墨画にも見えると思います♡
2種類の濃さの筆ペンを使ってそれっぽく仕上げました。
筆ペンは筆の中からインクが出てくる超便利アイテムで、フタを開ければすぐに描き始めることができるスグレモノです。
筆の中から水が出てくる「水筆」なんてものもあるのでより一層水墨画に近い表現が可能になります。
こちらは同じく筆ペンで描いたシーラカンス。
細かいことを気にし出すとやっぱりホンモノとは感覚が違いますが、筆で描くという感覚がどんなものかを確かめるには持ってこいです。
お試しで筆ペンで絵を描いてみて、楽しそうなら本格的に始める、っていうのもいいと思います。
◾️デジタルで水墨画
こちらの絵をごらんください。
これはiPadのお絵描きアプリで描いた水墨画風のデジタル絵です。
デジタルのいいところはなんと言ってもいつでもどこでもできる超お手軽感です。(タブレット、スマホのみ。PCはちょっと手間がかかります)
先ほどの筆ペン、エンピツもお手軽っちゃーお手軽ですが、紙を用意したり、場所をある程度は確保しないといけないので多少野良手間がかかります。でもデジタルはそういうの一切なしで、2秒で始めることができます。
ペンの種類もたくさんあって、筆とかエアブラシで水墨画のようなにじみとかぼかしの表現も可能です。
ちょっとしたスキマ時間にやるには持ってこいなのでオススメです。
こんな感じで、白と黒の世界を表現するにはいろんな表現の方法があります。
それでもやっぱりいちばん奥が深くて楽しいのは水墨画です。
墨を磨ったり、その墨を水で薄めたり、ある程度広い場所を確保したりと、準備にはすごく手間のかかる方法ですが、そのぶん墨がまるで生きてるかのように躍動する瞬間とか、描きあげた時の感動とか達成感なんかは他の絵とは一線を画しています。
そんな水墨画・墨絵の世界をぜひご堪能ください。
参考になればと思います。
こちらで言われる墨画が時代と共に変化し墨の使用方法を拡大し、また施色技法を変えながら水墨画と呼ばれるようになったと理解しています。大源流の中国画を歴史的にご考察頂ければ水墨画は、墨だけを使うものではないとご理解頂けると思います。