水墨画=和紙
そんなイメージがあると思います。
ネットとか書籍とかけっこういろんなところで「水墨画は和紙じゃないとダメだ」的なことを言っている方が多いのですが、結論からいうと「紙は何でもいい」のです。
和紙じゃないとダメなことは決してありません。
目的は水と墨を使って水墨画を描くことです。
水墨画を描いて作者の想いを、魂を紙の上に思いっきりぶつけて、観た人の心を揺さぶることが本来の目的のハズです。
それは和紙じゃないと達成されないのでしょうか?
答えはNOです。
それが紙なら何だっていいのです。コピー用紙でも、画用紙でも、メモ帳でも。
なんなら紙じゃなくても、布とか木とか、墨と水を吸収してくれるものだったら何だっていいんです。
ホントならね。
でも冒頭のように、水墨画=和紙っていうイメージがついてしまって、それが水墨画のことをほとんどわかってない人にまで浸透してしまっています。
事実僕自身も水墨画のことを全然知らなかったころ、そんな漠然としたイメージを持っていました。
だからちょっと水墨画を始めるのに躊躇してしまった記憶があります。
そんなイメージがついてしまったのは、水墨画の歴史が大きく絡んでいるようです。
けっこう黒い話です。
くれぐれも言っておきますが、和紙がダメというわけではありません。笑
和紙以外の紙を使うことがあんまりよしとされてない文化はどうなんだっていう、嘆きです。泣
長い歴史が生んだもの
日本にいろんな文化が入ってくるようになったのは明治以降のことです。
それまでの日本では筆記具といえば筆と墨と和紙でした。
文字を書くのに、硯で墨を磨って筆を使って文字を書いていたんですね。
だから誰かに連絡を取りたい時なんかはすごく手間がかかっていたんです。時代劇とかでたまにそういうシーンを見かけたりします。
今みたいにスマホでポンってわけにはいかなかったんです。
そういう墨と筆を使って文字を書いたりするようになったのは、西暦700年あたりのお話です。
和紙はすごく吸収がよくて手紙を書いたりするのにすごく相性がよかったんです。
和紙にはたくさん種類がありますが、このころから職人さんたちはこぞって良い和紙を作ろう、と鼻息を荒くしていたからです。
そこからおよそ1000年もの長い間、日本は島国という環境も相まって独自の文化を築いていきます。
鎖国国家の始まりです。
そうやって他の国の文化がまったく入ってこなかったので、和紙以外の紙がなかったんです。
なので日本の画家のみなさんは和紙に絵を描くしか方法がなかった。
そしてそんな鎖国国家が終焉を迎えて、いろんな国の文化を取り入れ始めたのが幕末、1800年代後半のお話。
西洋の文化が一気に入ってきて、筆記具も筆からエンピツやペン、墨からインク、和紙から洋紙になっていきました。
それはそれまで使っていたものとは格段に使い勝手がよかったので、みなさんこぞって西洋文化に流れていきました。
それまで当たり前だったものが一気に淘汰されて誰も筆と墨と和紙で文字を書かなくなったのに、水墨画は和紙に描くという文化だけは残ってしまいました。
どうしてそこだけ残ってしまったのか謎です。
勝手な憶測では、この時代に西洋のいろんな文化が入ってきて、絵画も西洋画の方が主流になっていったことが原因なのではないかなと。
それまでは狩野一族が日本の画壇を席巻していたので「絵画と言えば日本画」みたいな風潮がありました。
ところが江戸幕府が倒れて、明治政府になると狩野一族も同じくして衰退していきました。
それと同時に日本画がどんどん西洋画のカゲに隠れていって、日本画はマイナーな存在になってしまった。
当時の日本人は頭のカタイ人が多かったので(特に男性は)、西洋画に淘汰されそうな日本画家たちはその事実を受け入れることができず、「そんな西洋画が使ってる紙なんぞ使えるかい!」みたいな精神で意地でも洋紙を使わなかった。
みたいな感じなのかなーと、個人的には思っています。まぁ憶測なので軽く流してもろて。
それの真偽はさておき、今でも水墨画=和紙というイメージは根強く残っていて、ネットをみても書籍をみてもほぼほぼ和紙のことばかりです。
かといって、和紙以外の紙を使ったらダメということでは決してないのですが、逆に洋紙を使って水墨画を描く人もそこまでいない、というのが現状ではあります。泣
僕が水墨画展なるものに作品を出品した時、僕以外の人たちはみんな和紙を使って作品を描いていたようです。そもそも募集要項の資料の中に使う洋紙のサンプルが入っていて、それが全部和紙だったので、洋紙を使ったらダメなのか?という質問を本部の人に投げかけたところ、けっこう困惑していたのがすごく印象的でした。
それぐらい、水墨画=和紙っていう文化はまだまだ根強く残っていることの表れで、けっこう根深いなーと思っています。
まぁ、水墨画の技法とかを考えると和紙の方が圧倒的に相性がいいっていうのもまた事実なんですけどね。
僕の水墨画は普通の水墨画とは違って、水彩画の技法を取り入れてるので、水を大量に使います。
そうすると和紙だとすぐに破けてしまって絵を描くどころじゃなくなってしまうんです。
だから僕はアルシュという分厚めの水彩紙を使っているのですが、それはガチガチのフランス生まれのフランス育ちです。
芸術は自由です
水墨画は墨と水を使って絵を描く芸術です。
芸術の根底にあるのは「自由な表現」です。「これはダメ」っていう規制をかけると表現の幅を狭めてしまって、面白くもクソもなくなってしまいます。
なので水墨画を和紙に描くのもステキなことだし、西洋紙に描くのもステキなことです。
どっちのほうがいいとかはなくて、描きやすさとか表現したい作品によっていろいろ変えたらいいと思います。
オススメの紙
ここから先は僕の描き方のみで使える紙をいくつか紹介していきます。
普通の水墨画の技法だとあまり相性がよろしくないので参考にはならないかと思われます。
僕の水墨画の描き方は細かい描写が多いので目が細かい紙を重宝しています。
和紙は目が粗いので僕の描き方とは相性全然合わないのです。
まず。ホームセンターとか画材屋さんで売ってる一般的なスケッチブック。
これはわりと分厚い感じで、目もけっこう細かくて、お値段もお手頃価格なので、練習にはもってこいです。
僕が水墨画を始めたころはこれを使って描いていおりました
コットマンというメーカーの紙もすごく描きやすいです。アルシュの質感に近い感じの水彩紙で、お値段も比較的お安くなっております。
目の細さでいうとダントツですごいのがケント紙という紙。漫画家さんとかがけっこう使ってらっしゃる紙です。これは目が非常に細かくて繊細な表現がしやすいです。残念なのは厚みが少し足りなくてちょっと頼りないところ。
少量の水を含んだだけですぐに紙が波打ってしまうので、絵を描くどころではなくなってしまいます。エンピツで描くぶんには何もデメリットはないのでラフスケッチとか描く時に重宝しています。
先ほどご紹介にあずかりました「アルシュ」。
水彩画用の画用紙です。その歴史はなんと500年もあるそうで、ピカソとかも使ってたそうな。
この紙がいちばん厚みがあってかつ、目が細かくて僕の表現したいこととバッチリ合ったのでこれを使っております。
にじみ具合もぼかし具合も水の吸い方もすごく優秀です。
ただ、少しばかしお値段が張ります。
紙の歴史
ここからはさらにマニアックなお話になります。
いろいろ調べてたら紙の歴史に興味がわいてすごく面白くて共有しておきたいと思いましたのでよろしければおつきあいくださいませ。
紙の語源は「パピルス(papyrus)」というラテン語だそうです。
英語の「paper」とかフランス語の「papier」は両方とも「紙」ですが、パピルスが由来になっています。
パピルスは紀元前3000年ぐらい大昔の紙の材料のことで、水草の一種です。どっちかというと「布」に近い材質だったそうな。
本格的な「紙」が発明されたのは紀元前2世紀ごろの中国で、当時はいろんな方法です試行錯誤しながら紙が作られていました。
蔡倫(さいりん)というエライ役人さんが今の紙に近い実用的な紙を作りました。紙の材料には麻のボロきれとか樹皮を使っていたそうな。このころの役人さんは本当の意味でエライ人だったんですね。今の日本の役人も見習ってほしい。
そこから約1000年の時が流れて日本に伝わってきたのが7世紀、610年ごろ。
高句麗の僧、曇徴(どんちょう)が墨とともに日本に製紙法を伝えたと言われています。
当初は麻を材料に紙を作っていて、独自の改良を加えて楮(こうぞ)とか雁皮(がんぴ)を材料として使うようになって、日本オリジナルの「和紙」として発展していくことになります。日本人の得意技です。
まとめ
紙は水墨画ではすごく大切な道具のひとつです。重要視すべきは「描きやすさ」で、それによって気持ちよく筆が進んだり進まなかったりします。それは作品にもすごく影響します。
僕のような水墨画の表現をするのであれば上の3種類がオススメです。あくまでも僕の個人的な好みなので絶対にこれがいいというわけではありません。人それぞれ感じるところは違うし、表現したいことも異なると思います。なので、自分なりに考えて自分に合ったものを選ぶのがいちばんいいと思います。
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